青山 香織
アンサンブラウ イベント+マーケティング
欧州市場で今、クロスボーダーEコマースの伸びが注目されています。
クロスボーダーEコマースとは、自国外にいる消費者へのオンラインで販売することを指します。クロスボーダーは「国境を超えた」の意味なので、「国境を超えたオンライン販売」と言えます。
例えば日本から、アメリカのオンラインショップにアクセスして、そこで購入をして日本まで配送してもらう場合が、クロスボーダーEコマースにあたります。
陸続きで多くの国が隣接し、同じユーロ通貨が流通するEU内では、このクロスボーダーEコマースが成長しやすい環境にあります。
今日は欧州でのクロスボーダーEコマースの成長ぶりについて紹介します。
ドイツ・欧州でもコロナ禍に大きく市場を拡大したもののひとつが、オンライン販売です。
ドイツ小売・卸売業協会の統計データによると、コロナ前となる2019年のオンライン販売額は592億€。現時点のレート(1円=約141€)で換算すると、約8.4兆円。
2020年以降、コロナ禍の外出規制を背景にオンライン販売は大きく伸び、
(上のグラフより)
2020年:728億ユーロ(前年よりプラス23%)
2021年:867億ユーロ(前年よりプラス19%)
2022年:974億ユーロ(予測値。前年よりプラス12.4%)に。
予測値ではありますが、2022年には974億ユーロに達する見込みで、日本円に換算すると、約13.7兆円。
コロナ前の2019年よりプラス65%の伸びとなります。
各年の伸び率は2020年が最も高いですが、外出規制が撤廃され実店舗での買い物への支障がなくなった2022年の伸び率も12.4%で、これは、10%前後の伸び率にとどまっていたコロナ前過去10年間の伸び率よりも高くなっています。
このオンライン販売の伸び、支えているのはもちろんドイツ国内でのオンライン購入が増えている事ではあるのですが、同時に、クロスボーダーEコマースの伸びも重要な要因となっています。
このクロスボーダーEコマースの拡大が、今、欧州で注目されています。
自国外でのオンライン販売についての調査分析を提供するクロスボーダーEコマース・ヨーロッパ社(Cross-Border Commerce Europe)によると、国外オンラインでの販売額は、欧州主要16カ国で、2020年の1,460億ユーロから20%増え2021年には1,710億ユーロに。
さらに、2022年には2021年から30%増の2,200億ユーロに達する見込みとのことです。
ここで欧州主要16カ国とされているのは次の国です(アルファベット順)。
オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、ノルウェイ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、UK。
このうち、クロスボーダーでの購入の割合が高いトップ5(2019年)は次の国です。
*%は、その国の全オンライン購入に占める国外サイトでの購入割合。カッコ内は国外サイトでの購入総額。
1.ルクセンブルグ:87.5%(7億€)
2.アイルランド:62.8%(44億€)
3.オーストリア:44.5%(44億€)
4.スイス:41.6%(50億€)
5.デンマーク:40%(57億€)
市場として大きな国とされない国が占めており、購入額も、例えば先に紹介したドイツ全体の金額と比較すると小さくはなりますが、クロスボーダー購入の割合は4割以上、特にルクセンブルグではオンライン購入の9割近く(87.5%)が国外のオンラインショップから購入しています。
この5か国に共通して言えるのは、EU内で人口は少ないが可処分所得が比較的高い国である点です。
では、販売しているのはどの国でしょうか。
クロスボーダーでのオンライン販売額トップ5を占めるのは次の国です(2021年)。
1.ドイツ 320億ユーロ (前年比プラス18%)
2.UK 290億ユーロ(前年比マイナス12%)
3.フランス 230億ユーロ(前年比プラス16%)
4.スペイン 113億ユーロ(前年比プラス13%)
5.オランダ 48億ユーロ(前年比プラス9%)
ドイツ、UK、フランス、スペイン、オランダの5か国で、ドイツが販売額、成長率ともにトップとなっています。
同じ調査で2018年にはドイツの順位は6位でしたが、そこから大きく販売を伸ばしており、欧州のクロスボーダーオンライン販売サイトの上位500社のうち116社がドイツ企業で、中でも
この5か国のうち、ブレキジット(Brexit)をしたUKだけは販売額が減少しています。
ブレキジット前の2018年の時点では、販売トップはUKでしたが、2022年の現在、ドイツのオンライン販売がUKに代わり最も大きなシェアを獲得しています。
欧州での国境を超えたオンライン販売では、EU加盟国であることがアドバンテージになっていると言えます。
まずは通貨。EU加盟国同士であればユーロが共通通貨となるので、通貨換算や為替リスクがありません。決済についてもEU内ではやりやすい場合もあります。
配送についても、陸続きでかつ国境を超えることもEU内では負担が軽いです。
あとは言語ですが、現在、欧州の主要オンラインショップでは多言語、それも英語と自国語だけではなく、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語等、欧州で話される多くの言語に対応しています。
例えばドイツ語の場合、ドイツ語を日常的に使っているのはドイツだけではありません。オーストリア、そしてスイスの一部、またその他の国でもドイツ語を理解する人はヨーロッパには多く、ドイツ語を話す総人口は日本の人口とほぼ同じに達しています。
このクロスボーダーオンライン販売の伸びは、これからの欧州での販売戦略に大きな変化をもたらすと思います。
例えば消費財の欧州市場での販売拡大を目指す場合、これまでは各国の有力ディストリビューターとの契約が効果的な場合が多かったと思います。
その場合、オーストリアやスイス、ルクセンブルクといった人口の少ない国は優先順位が後になる傾向でした。
それがオンライン販売の伸びによって、国外での販売も好調なオンラインショップやディストリビューターが、欧州での販売を大きく伸ばす原動力となってきます。
欧州の従来型のディストリビューターの多くはデジタル面での対応がゆっくり目で、このクロスボーダーオンラインの流れに乗り遅れているところもあります(もちろん中には上手にやっているところもありますが)。
これからの欧州での販売、マーケティングでは、新しいタイプのディストリビューター、またディストリビューターには限らず様々なビジネスパートナーとつながっていくことが、とても重要になってくると思います。
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*こちらの記事は下記情報を参考にしています。
https://ecommercenews.eu/cross-border-ecommerce-worth-e171-billion/
https://www.cbcommerce.eu/press-releases/press-release-cross-border-commerce-europe-publishes-the-second-edition-of-the-top-16-countries-cross-border-europe/
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